ホーム › 記事 › 「セキュリティ人材11万人不足」を出したISC2は、2025年版で推計をやめている
「セキュリティ人材11万人不足」を出したISC2は、2025年版で推計をやめている
よく見る「日本はセキュリティ人材が11万人不足」という数字の出どころをたどりました。
出典は ISC2 の2023年版調査です。同じ ISC2 が、2025年版では人材不足の推計そのものを出していません。
この記事の要点
- 「11万254人」は 2023年4〜5月の調査。日本の回答者は 936人
- この数字は求人数ではない。「何人必要か」という申告からの推計
- ISC2 は2025年版に「今年は推計を含めていない」と明記している
- 理由は「回答者が人数より重要スキルを優先するようになった」から
- それでも日本語の記事では、いまも引用が続いている
使った資料
一次資料だけを使いました。確かめられなかったものは、そう書きます。
- ISC2「2025 ISC2 Cybersecurity Workforce Study」(
https://www.isc2.org/Insights/2025/12/2025-ISC2-Cybersecurity-Workforce-Study) - ISC2 プレスリリース(PR TIMES、2023年11月1日)(
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000103584.html) - 参照日:2026年9月30日
「11万254人」は何の数字か
2023年11月1日のプレスリリースにこうあります。
日本のサイバーセキュリティ人材は48万659人(前年比23.8%増)に達し、2022年から9万2000人以上が新たに雇用された
デジタル資産を適切に保護するためには、さらに11万254人(前年比97.6%増)の専門家が必要であると試算されている
調査の中身はこうです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 発表 | 2023年11月1日 |
| 調査時期 | 2023年4月〜5月 |
| 全体の回答者 | 14,865人 |
| 日本の回答者 | 936人 |
| 実施 | Forrester Research と共同、オンライン調査 |
求人数ではない
ここが一番よく取り違えられるところだと思います。
「11万254人」は、求人票の数でも、企業が採用計画に出した人数でもありません。回答者が「デジタル資産を適切に保護するには何人必要か」と聞かれて答えた内容からの推計です。
母数は日本の回答者 936人 です。
算出方法はプレスリリースに書かれていない
プレスリリースには「推定方法の詳細な説明は、本レポート(英語)をご覧ください」とだけあります。どう936人から11万254人を出したかは、この文書からは分かりません。
ISC2 は2025年版で推計をやめた
2025年12月4日に公開された2025年版に、こう書かれています。
For years, the ISC2 Cybersecurity Workforce Study has been informed by cybersecurity professionals' view that the shortage of qualified people in the field was the most prominent factor impacting their ability to effectively defend their organizations. In recent years and more clearly in 2025, professionals participating in our study are evolving their opinions. Respondents to the 2024 and 2025 studies have prioritized the need for critical skills as more important than the need for more people.
Therefore, ISC2 has not included an estimate of the cybersecurity workforce gap this year.
訳すとこうなります。「2024年と2025年の回答者は、人数を増やすことより重要なスキルの必要性を優先している。したがって ISC2 は今年、人材ギャップの推計を含めていない。」
| 項目 | 2023年版 | 2025年版 |
|---|---|---|
| 公開 | 2023年11月 | 2025年12月4日 |
| 調査時期 | 2023年4〜5月 | 2025年7〜8月 |
| 回答者 | 14,865人 | 16,029人 |
| 日本 | 936人 | 回答者の8% |
| 人材ギャップの推計 | 11万254人 | 出していない |
出した本人が、2年後に同じ指標を出すのをやめています。
それでも引用は続いている
「11万254人」または「11万人不足」を載せているページを探すと、いまも見つかります。確認できたのは次のものです。
- 東洋経済オンライン(記事タイトルに「日本は11万人不足」)
- EnterpriseZine
- JAPANSecuritySummit Update
- サイバーセキュリティ総研
- 転職エージェントのメディア記事
いずれも2023年の発表を受けたもので、記述自体は当時として誤りではありません。古くなっただけです。
検索結果には「経済産業省も引用している」とあったが、確かめられなかった
検索では、経済産業省の「サイバーセキュリティ人材の育成促進に向けた検討会 最終取りまとめ」(2025年5月)が、この民間調査を踏まえていると示されました。
ただしその PDF に直接アクセスできませんでした(HTTP 403)。ブラウザの User-Agent を付けても同じでした。確かめていないので、この記事では引用しているとは書きません。読めたら追記します。
この記事が言えること、言えないこと
| 言えること | 言えないこと |
|---|---|
| 「11万254人」は2023年調査の推計で、求人数ではない | 数字が間違っていた |
| 出した本人が2025年版では出していない | だからセキュリティ人材は足りている |
| それでも引用が続いている | 引用しているページが何件あるか(全部は数えていない) |
「11万人は嘘だ」と言うつもりはありません。2023年時点の推計として、そう発表された数字です。言えるのは「この推計はもう更新されていない」までです。
そして「だから人材は足りている」も言えません。ISC2 自身が、推計をやめた理由を「人数より重要スキルが優先されるようになったから」と書いています。不足が解消したとは書いていません。
数字を引くときに自分がやっていること
このサイトでは、数字を引用する前に3つ確かめています。
- いつの数字か。2023年4〜5月の調査を2026年に引くなら、その3年を明記する
- 何を数えたものか。「必要だと答えた人数の推計」と「求人数」は別のもの
- いま同じ指標が出ているか。出典が更新をやめていたら、それ自体が情報
3つ目で引っかかったのがこの記事です。出典が更新をやめたことは、数字そのものより大きな情報でした。
まとめ
- 「11万254人」は 2023年4〜5月の調査。日本の回答者は 936人
- 求人数ではなく、「何人必要か」への回答からの推計。算出方法は公表資料に無い
- ISC2 は2025年版に「今年は推計を含めていない」と明記した
- 理由は「回答者が人数より重要スキルを優先するようになった」から
- 古い数字が悪いのではなく、更新が止まったことが伝わっていない
自分の転職活動の記録は103社応募した記録に、統計の読み方でつまずいた話は有効求人倍率の記事に書いています。
関連する記事
- 自分の転職活動は、有効求人倍率という指標に1件も入っていなかった
応募時の有効求人倍率は1.29。ただしこの指標は自分が通った経路を測っていなかった - AIに記事を書かせたら、7本の記事に事実でない記述が9件入っていた
公開前のレビューで9件止まった。検査の仕組みそのものが伏せる情報を漏らした件も書いている - 登録セキスペは3年で8,282人が新しく登録したが、総数は4,820人しか増えていない
IPA の公表値7時点。総数は26,453人だが、新規を足すと引き算が合わない
面談したエージェントの一覧は転職エージェントの比較にまとめています。よかった3社には紹介料が発生するリンクを置いていません。