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バックアップは9割が取っていて、復元できたのは2割だった

警察庁が半期ごとに出している「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」の統計編には、ランサムウェア被害に遭った組織へのアンケート結果が載っています。バックアップに関する3つの表を、令和3年から令和8年上半期まで6回ぶん並べました。
バックアップを取っていた組織は、毎回8〜9割です。復元結果に答えた組織のうち、復元できたのは毎回2〜3割でした。
同じ2026年に出た別の調査では、データが暗号化された日本の組織の58%がバックアップで復元したとあります。2倍以上違います。ただし、数えているものが違います。
この記事の要点
- 5年合算で、バックアップを取っていたのは 652組織中582(89%)
- 復元結果に答えた547組織のうち、復元できたのは 120(22%)。年ごとに見ても17〜29%
- 復元できなかった理由の 70%は、バックアップ自体の暗号化・消去
- Sophos の日本調査(2026年)は、暗号化された組織の58%がバックアップで復元。分母も設問も違う
- 「復元率」と一言で言うときは、どちらの数字かを書く必要がある
使った数字
出典は2つです。
- 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」の本文 PDFと統計データ(Excel)。統計編「バックアップ ①〜③」(147〜149ページ)。一覧:
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/ - ソフォス「日本におけるランサムウェアの現状 2026年版」(2026年7月)のPDF
- 参照日:2026年10月10日
警察庁の数字は、都道府県警察に被害を報告した組織のうち、アンケートに答えた組織の数です。令和8年上半期の被害報告は123件で、バックアップの表に出てくる回答は50組織です。令和3年から令和7年までは年ごとの表、令和8年は上半期だけの表なので、6回ぶんを並べると期間の長さが揃いません。この記事では合算の値と年ごとの値を分けて書きます。
Sophos の数字は、同社が委託した調査の結果です。本文にはこうあります。
過去 1 年間にランサムウェア攻撃を受けた組織に所属する 2,158 人の IT/サイバーセキュリティリーダー (うち 152 人は日本の回答者) を対象とした調査の結果に基づいています。
調査は2026年1月から3月、回答者は従業員100人から5,000人の組織に所属している、とも書かれています。
バックアップを取っていた組織は、毎回8〜9割
統計編の「バックアップの取得状況」です。回答組織のうち、バックアップを取得していた組織の割合を年ごとに並べました。
バックアップを取得していた組織の割合。括弧内は取得していた組織数/回答組織数。出典:警察庁 統計編「バックアップ ①」
令和3年から令和7年の5年を合算すると、652組織中582、89%です。取っていない組織のほうが珍しい、という状態が5年続いています。
そのバックアップから復元できたのは、毎回2〜3割
次が「バックアップからの復元結果」です。
| 年 | 復元できた | 復元できなかった | 合計 | 復元できた割合 |
|---|---|---|---|---|
| 令和3年 | 29 | 72 | 101 | 29% |
| 令和4年 | 21 | 90 | 111 | 19% |
| 令和5年 | 21 | 105 | 126 | 17% |
| 令和6年 | 29 | 81 | 110 | 26% |
| 令和7年 | 20 | 79 | 99 | 20% |
| 令和8年上半期 | 11 | 29 | 40 | 28% |
| 5年合算(令和3〜7年) | 120 | 427 | 547 | 22% |
5年間で、復元できた組織は最も多い年でも29%、少ない年は17%です。年によって傾向が変わった、とは言えません。令和8年上半期の28%も、この幅の中です。
取っていた組織は9割。復元結果に答えた組織のうち、復元できたのは2割です。2つの割合は分母が違うので、引き算はできません。
なお、復元結果の合計(たとえば令和3年の101)は、取得していた組織数(107)より少なくなっています。差の理由は資料に書かれていません。
復元できなかった理由の7割は、バックアップ自体がやられていた
3つ目の表「バックアップから復元できなかった理由」です。この表は令和4年からあります。
| 理由 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 | 4年合算 | 割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| バックアップの暗号化・消去 | 62 | 72 | 54 | 48 | 236 | 70% |
| 運用の不備 | 16 | 16 | 14 | 19 | 65 | 19% |
| その他 | 8 | 16 | 6 | 5 | 35 | 10% |
| 合計 | 86 | 104 | 74 | 72 | 336 |
令和8年上半期は、暗号化・消去が14、運用の不備が8、その他が7です。
令和4〜7年の「復元できなかった」は355組織、理由の回答は336件で、差の理由は資料に書かれていません。上の割合は理由の回答336件に対するものです。
復元できなかった理由の7割は、バックアップが暗号化されたか消されたかです。取っていたバックアップそのものが使えなくなっています。
本文は、攻撃の代表的な流れをこう書いています。
攻撃者は、未修正のぜい弱性や漏えいした認証情報等を悪用して組織のネットワークへ侵入する。そして、より広い領域にアクセスするために管理者権限の奪取やセキュリティ無効化を試みながら、内部探索により重要データやバックアップを物色する。
バックアップは、攻撃者が探しに来るものの1つとして本文に書かれています。
ここからは出典ではなく、この記事の見方です。監査の項目がバックアップを取得しているかどうかで終わっていれば、答えは89%の側に入ります。この統計が分けているのは、取っているかではなく、使えたかです。
別の調査では、暗号化された組織の58%がバックアップで復元している
Sophos の2026年版レポートには、こうあります。
日本の組織の 58% がバックアップを使用して暗号化されたデータを復元しました。この数値は 2025 年のレポートの 59% からわずかに減少しています。
この58%の分母は、同じ節に「攻撃を受けた日本の回答者のうち 51% がデータを暗号化されたと回答しました」「データが暗号化された日本の組織の 96% はデータを復元することができました」とあることから、データが暗号化された組織と読めます。実数は書かれていません。
警察庁の22%(5年合算)や28%(令和8年上半期)とは、2倍以上の開きがあります。2つの調査を並べます。
| 警察庁 | Sophos 日本 | |
|---|---|---|
| 誰が答えたか | 都道府県警察に被害を報告した組織 | 過去1年にランサムウェア攻撃を受けた組織の IT/サイバーセキュリティリーダー |
| 回答数 | 令和8年上半期は50組織。5年合算で652組織 | 152人 |
| 組織の規模 | 被害報告全体では「中小企業が約6割」(令和8年上半期・本文)。回答組織の規模は資料に無い | 従業員100人から5,000人 |
| 時期 | 令和8年上半期(2026年1〜6月)の被害。5年合算は令和3〜7年(2021〜2025年) | 2026年1〜3月に調査。過去12か月の経験 |
| 設問 | バックアップからの復元結果(できた/できなかった) | 暗号化されたデータの復元にバックアップを使ったか |
| 割合の分母 | バックアップを取得し、復元結果に答えた組織(令和8年上半期 40、5年合算 547) | データが暗号化された組織(回答者の51%)と読める。実数は非公表 |
| 数字 | 28%(11/40)、5年合算22% | 58% |
違いは3つあります。
1つ目は、誰が答えたかです。警察庁は警察に報告した組織で、被害報告全体では本文に中小企業が約6割とあります。Sophos は従業員100人から5,000人の組織に限っています。中小企業基本法の定義では、中小企業の一部は100人以上です。規模の範囲は重なります。規模の違いが差の主因かどうかは、この資料からは言えません。
2つ目は、設問と分母です。警察庁の表はバックアップから復元できたかどうかで、分母はバックアップを取っていて、復元結果に答えた組織です。Sophos は暗号化された組織のうちバックアップを使って復元した割合で、バックアップの有無は分母に入っていません。同じ節には「日本の組織の 51% が身代金を支払ってデータを取り戻しています」ともあります。手段は重なりうるので、58%はバックアップだけで戻せた割合ではありません。
3つ目は、時期です。警察庁は2026年上半期の被害、Sophos は2026年3月までの1年間の経験です。
どちらが正しい、という話ではありません。どちらも「復元率」とひとまとめに呼ばれがちですが、別のものを数えています。
この数字で言えないこと
- 日本の組織全体の復元率は分かりません。警察庁は警察に報告した組織、Sophos は調査に答えた組織の数字です
- 警察庁の表で「復元できた」が全部なのか一部なのかは、資料に書かれていません
- 復元結果の合計が取得組織数より少ない理由も、資料に書かれていません
- 2つの調査の差が、母集団・設問・時期のどれでどれだけ生まれているかは、この2つの資料からは分けられません
- 警察庁の令和8年は上半期のみです。通年の値が出れば、この記事の表を更新します
まとめ
- バックアップを取っていた組織は、5年合算で 89%(582/652)
- 復元結果に答えた組織のうち、復元できたのは 22%(120/547)。年ごとでも17〜29%で、傾向が変わったとは言えない
- 復元できなかった理由の 70%はバックアップ自体の暗号化・消去
- 本文は、攻撃の代表的な流れの中で、バックアップを物色すると書いている。70%との関係は出典に書かれていない
- Sophos 日本調査の 58% は、分母(暗号化された組織)・設問・時期が違う
- 「復元率」を引用するときは、どの調査の、何の割合かを書く
警察庁の統計は半期ごとに出ます。令和8年の通年が公表されたら、同じ3つの表を足します。
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